1:自然豊かな故郷

小椋 一(はじめ)は、この春から東京の大学に入る事になった。
入学が決まってから一週間ぐらいは目の回るような忙しさだった。
一人で下宿先を探し、生活用品の段取り準備が主だった。
下宿探しは、アパートや普通の下宿屋を見て
大学に近い下宿屋に決め、一旦、帰郷した。

上京前のある晴れた日、一は、家の前の道を南へ歩いていきました。
少し広くて歩きやすい農道の先には、たんぼが広がっていて
その中に、一の家の小屋があります。
小屋の前まで行き、日当たりのいい所に腰かけ
目の前に広がる景色をぼんやり見ていた。
たんぼにはレンゲが咲きみだれ、
ひばりが遠くの空高い所で
「ぴーよ、ぴよ。ぴーよ、ぴよ。」
と、盛んに鳴いていました。

一は生まれてからの事をふと思い出していた。
一は小椋家の3人兄弟の末っ子で生まれました。
小椋家は、昔から農家で、父母、祖父母、姉兄に
囲まれて、育った。
家は、古い藁ぶきの家で、昔は2階に蚕も飼って
いたそうですが、今は飼っていません。
離れに平屋の家があり、そこに祖父母が住んでいました。

家の周りは、とても長閑で、自然たっぷりでした。
田植えの時期になると、カエルがよく鳴いていて、
煩いくらいで、
この時期に川のそばを歩いていると
カエルがびっくりしてか、川にドボンドボンと
飛び込む水音がよくしていた。
それを面白がって、わざと川のすぐ横の道を
走ったりして遊んだりもしていた。
梅雨時になると、川では蛍がいっぱい飛んでいて、
時には、家まで入ってきました。
少し離れた所にはこんもりした竹藪や森があり
そこには蛇や野ウサギも棲んでいました。
蛇は、竹藪近くをにょろにょろと、時折
道を我が物顔で、横断していました。
野ウサギも、ピョンピョンと森の中や
森のそばの道を跳ねていました。
夏休みになると、少し川幅のある川は、
一たち小学生の水浴び場となります。
子供の親たちが、少し下流の所を堰き止め
天然のプールを作ってくれた。
長さ約20mぐらいの川の両側の雑草を刈り
きれいにしてくれた。
川の深さは、一が立てば足がすぐ着くくらい、
川なので少し流れあるが、それもまた楽しかった。
堰き止めた所の下流には、色々な魚がいっぱい上ってきます。
その少し下流の水たまりには、魚がうようよいた。
それをタモ(魚取り用のアミ)ですくったり
時には、手づかみで捕ったりもできた。