5:夏祭り(1/3)
一は、毎年 近くの神社の夏祭りが楽しみでした。
それは、自転車で30分ぐらい離れた場所にあり、
この辺りでは一番大きい神社で行われる夏祭りです。
大きな山車や神輿、馬かけもあります。
それを見るのも面白いが、やはり、なんといっても、
いつもと違って、色々な食べ物や見る物の店、
遊べる店も楽しみでした。
その夏祭りには、金魚すくい、ゴム風船、たこ焼き屋、
綿菓子屋などの店が来ます。
しかし、一の一番の楽しみは、型抜き遊びの店でした。
型抜き遊びとは、板状の物に絵が描いてあり
その絵柄のように削る遊びです。
板は、立て3cm、横2cm、厚さ3~4mmの小麦粉を
固めたような物に、色々な絵が描いてあり、
その部分に少しだけへこみがついています。
それを、その外側の輪郭通りに先のとがった針のような
物を使って削り、その絵のようにできると、
賞品がもらえるのです。
金額は、10円、20円、30円、50円とあり
その金額によって、もらえる物が違っていました。
金額が、高くなるほど、難しい絵柄になっていました。
その為、慎重にやらないと、欠けてしまいます。
少しでも欠けてしまうと、だめです。
10円、20円でうまくできると、ガムやせんべいなどの
お菓子や、文房具がもらえました。
最初は3~4回やって、やっとできるぐらいでしたが、
何度かやっているうちにコツが掴めるようになりました。
30円、50円になると、絵柄がそれなりに難しくなっていました。
しかし、貰える物が、ぬいぐるみやおもちゃになりました。
その中に、ウサギのぬいぐるみがありました。
30円と50円では大きさが違いますが、どちらでもいいかと
思い、30円のものに挑戦しました。
やはり、1回では、上手くいきませんでした。
3回目にやっとできました。
すると、お店の人から、
「よく頑張ったね。大きい方を上げるよ!」
と言って、25cmぐらいぬいぐるみを
渡してくれました。
そのぬいぐるみは、白いウサギで、ビニール袋に入っていました。
それを新聞紙に包んでもらいました。
一は、うれしくって、
「ありがとうございます。
ありがとうございます。」
と、2回も言ってしまいました。
一は、それを自転車から落さないように大事に持ち帰りました。
家に帰って、母に
「今日、上手くできて、このぬいぐるみをもらったよ。」
と言って、見せた。
「よかったね。すごいね。でも、それどうするの?」
と、母に聞かれ、
「由紀ちゃんにあげようと思う。」
と、答えた。母は、
母は、
「へー。でも、一がそうしたいなら、
そうすれば良いと思うよ。
それも、一にしか出来ないことだからね。」
と、言った。一は
「うん」
と、答えるだけでした。