11:言ってはいけない言葉(前半)

5年生になると、やはり、担任の先生は、野田先生ではなく、
男の佐藤先生になりました。
とうちゃんより大分年上の感じでした。
野田先生は、新3年生の担任になりました。
僕は、又、5年生用の本をねえちゃんに頼んで、
買ってきてもらいましたが、野田先生が担任でなくなった事が
ショックで、あまり勉強しなくなりました。
そして、6月初め頃、何日か学校の授業が午後初めに終わる日が
ありました。
それは、この小学校の周りが農家が多い為当然農家の子が多い事と、
ちょうど農繁期で忙しい時期という事もあり、
少しでも家の手伝いをするようにという事で、
学校が決めた事でした。
そのような日は、当然、みんな、家の手伝いをする為、
学校から家に帰っていきました。
僕は、農家でない為、家に帰っても手伝う事もありません。
ねえちゃんも中学校なので、家に帰っても誰もいません。
そのような似た同級生の子、5~6人で、家に帰らず、 
校庭の片隅にある砂場のある鉄棒辺りで遊んでいました。
片隅といっても、職員室からは丸見えです。
すると、校内放送で、田中教頭先生が、
「鉄棒の所で遊んでいる子、
直ぐ、職員室の前まで来なさい。」
という、放送が流れてきました。
僕たちは、お互い顔を見合わせ、
僕たちの事かなと思いながら、
職員室の方を見ました。
すると、教頭先生は、僕たちを見て手招きしています。
僕たちは、あー、やっぱり僕たちか、怒られると思い、
少ししょんぼりしながら、職員室の前まで歩いて行きました。
教頭先生は、僕たちを見て、
「みんな、ここに並びなさい。」
と言って、僕たちは職員室の前の廊下に並ばされました。
少し低い落ち着いた声で、でも、少し怖そうな声で、
「お前たち、なぜ、呼ばれたか、
わかっているか?」
と言います。
僕たちは、なんとなくわかるけど、
答えられませんでした。
続けて、教頭先生は、言います。
「今日、午後の授業が早く終わったのは、
みんなが、家に帰って、家の手伝いをしなさいという事で、
早く終わったのだぞ。
それなのに、なんで、あんな所で、遊んでいるのだ。」
僕らは、顔を見合わせしょんぼりしていました。
当然、教頭先生の顔は見れません。
教頭先生は、続けて、みんなに一人づつ、
反省の言葉を求めました。
最初の子は、
「これから気をつけます。」
次の子は、
「これから、家に帰って、家の手伝いをします。」
と言い、そして、最後に僕の番になりました。
僕は、頭の中で色々考え、
「これからは、絶対、今日のように
遊ばないようにします。」
と言いました。
すると、教頭先生は、急に大きな声で怒り出し、
「小田君、言って良い言葉と悪い言葉がある。
絶対なんて言葉は、何があっても
言ちゃーいけない言葉だぞ。」
と言いました。
僕は、頭が動転して、
「はい、これからは絶対言いません。」
と言ってしまいました。
教頭先生は、
「まだ、言うか!」
と、更に大きな声で叱られてしまいました。
それから、僕は、急に涙が止まらなくなり、
肩を震わせて泣き続けました。
僕は、今まで、こんなに叱られたことがないのと、
叱られたくない先生に叱られたことがショックで
泣いていたのでした。
教頭先生は、最後に
「もう、今日はかえっていい。
よーく家に帰って、今言ったこと、
反省しなさい。」
と言われました。
僕は、何が何だかわかりませんでした。
なぜ、絶対と言ったのがいけないのか。
それから、僕が職員室の前の廊下を出ようとしていると、
野田先生が、
「小田君、先生聞いていたけど、
教頭先生が小田君に強く叱ったのは、
小田君だからだよ。
他の子だったら、あんなに強く叱らなかったと思う。」
と言うのでした。
僕は、まだその意味が良くわからず、
また泣き出してしまいました。
野田先生は、
「小田君なら、教頭先生の叱った意味、
分かると思う。」
そう言って、僕の肩を抱いてから、そーと肩をたたいてくれました。
でも、僕はまだ意味がわからないまま、泣きながら家に帰りました。