1:怖い犬

昭和30年4月、僕はこの春、小学1年生になりました。
僕は、気の小さい臆病な子供でした。
しかし、小学校にもだいぶ慣れて、友達も増えてきました。
又、家のお手伝いも色々できるようになりました。
僕の家は、農家で色々な作物を作っていました。
春にはたんぼで玉葱を収穫し、そのあと そのたんぼを耕して
稲の苗を植え、秋になるとその稲を収穫する。
又、そのあとは、たんぼを耕して玉葱の苗を植える。
そんな繰り返しで行っていました。。
その時、その時で、僕は色々手伝えることをします。
子供の手伝いと言っても些細な事ばかりですが、
僕にとっては、大変な事ばかりです。
しかし、父ちゃんや母ちゃんの手助けになると思うと
やらなくてはならないと思うのでした。
母ちゃんから、
「友仁、明日 下のたんぼの玉葱引き、学校から帰ってきたら、手伝ってね!」
と、言われると、
「はーい」と、言ってしまいます。
心の中で(いや)と、思っても言えない子でした。

僕には六つ上の兄ちゃんがいます。
兄ちゃんは、中学校授業の後、部活があって、
その部活が終わって帰ってきてから、家の手伝いをします。
その為、僕が先になることが多く、僕は先に行ってできることからします。
じいちゃんもばあちゃんもすでに農作業しています。
僕が行くと、ばあちゃんが
「友仁、よく来た。」
と言って、一緒に手伝いをやり始めます。
雨が降ると、農作業ができない為、僕はほっとします。
かといって、勉強をずーっとしているわけではありません。
勉強は苦手でした。
その為、殆んど、一人で遊んでいることが多かった。

ある日、学校からの帰り道、同級生のひろし(裕司)君と
ひろし君家へ遊びに行く約束をしました。
そして、僕は家に帰るとすぐ、ばあちゃんに訳を話し
ひろし君の家に向かった。
まだ、明るい状態でしたので、いつもの近い道を通って行くつもりでした。
ひろし君の家までの距離は、約500~600mぐらいでしたが、
一つ大きな問題がありました。
それは、ある家の前を通らなければ、ひろし君家へは行けないのです。
しかし、そのある家にはよく吠える犬がいる。それが、怖かったのでした。
それで、そこの家の前 約5~6mぐらいを全速力で走って
通過しなければならなかったのでした。
いよいよ、少しづつその家の前に近づいてきました。
垣根越しにそっと覗いてみました。
すると、やはり犬はいますが、寝ているようにも見えました。
気を取り直して、大きく息を吸って、そーっと家の前を
通ろうとした瞬間、やはりその犬は、気づいて大きな鳴き声で
「ワンワン」
と吠え始めました。
それで、僕は一目散に走り過ぎました。
犬は、鎖で繋がれているのですが、やはり、吠えられると
怖いのでした。

ひろし君の家で遊んでいる間は、その犬の事はすっかり忘れていました。
夕方になってきたので、家に帰る時 又、その犬の事を
思い出し、帰りどうしようと思案しました。
その結果、犬に吠えられることを避ける為、少し 遠回りして
家に帰ることにしました。
約200~300mぐらい遠回りになりますが、吠えられることを思うと
全く苦にはなりませんでした。
家に帰って、母ちゃんにそのことを話したら、笑っていました。
兄ちゃんも、隣で聞いていて笑っていました。