7:ポチの能力(前半)

それから、数か月経ちました。
ポチも、最初見た時よりも、体がだいぶ大きくなり、
すっかり、我が家の一員になってきました。
ポチは、一人散歩もできるが、やはり、僕と散歩する方が
うれしいようです。
ぼくが、時々、散歩の途中で、たんぼのあぜ道に座って
休憩すると、僕の隣にポチも座ります。
僕が何気なくポチの横顔を見ると、どこを見ているのか
分からないが、じーと前を見ています。
ポチは、僕をご主人様と思い、しっかり守っているのだと
言いたげに見えました。
又、それが僕にはとても微笑ましくもあり、
頼もしくも思えました。
ぼくも、ポチと一緒に、遠くの空をみていました。
青空には、色々な形をした白い雲が浮かんでいました。
それが、何を意味しているのか分かりませんが、
ただ、見つめているだけで僕は満足でした。
時の流れを雲の流れの中で感じ、心も自然と豊かになったような
気持ちになるのでした。

そして、又、僕は、西の川の水の少なくなる頃
ポチと、川を見に行きました。
すると、昨年水たまりがあり魚のいっぱいいた所は、
川底も浅くなって、干上がっていました。
そして、又、川の流れも変わっていて、さらにずーと西の方に
水たまりがあるのが分かりました。
そこは、昨年の水たまりよりは大きい水たまりでした。
よって、深くなっている所もあり、中々水の中へは入っていけません。

僕は、ポチのくさりを水のそばにある大きめの石を重しにして
ポチを遠くに行かないようにしました。
そして、水たまりの状態を観察していました。
すると、時折、水面を魚が跳ねる事があったので、
よしよし、魚はいるな。もう少し経って、又、
水たまりが小さくなる頃に来ようかなと、思って眺めていました。
暑さのせいもあって、ボーとしていたら、
急にポチが
「ワンワン、ワンワン」
と、大きく吠えだしました。
普段、ポチが、ワンワンなんて吠える事はめったにありません。
ポチが、何かに襲われているのか?と思い
振り返りながら見に行きました。
しかし、ポチが何かに襲われているという事はありません。
ですが、ポチは何か異常を僕に伝えようとしている事が分かりました。
ポチは、しきりに川上の方に向かって吠えていました。
僕は、川上の方を見ました。
すると、川上の方から白い物。そうです。水しぶきが見えました。
それは、凄い勢いで下流に向かって流れてきていたのでした。
その先端は、すぐそこまで来ていました。
これは、危ないと、思い、ポチのくさりを掴んで
来た道を一目散に走り、川原を走り始めました。
この時、ポチは、僕の前を走って、かつ、僕を引っぱるぐらいの
勢いで堤防の上を目指しました。
そして、先ほどの水たまりと堤防の中間ぐらいに来た時、
振り返って見ると、川上から流れてきていた水しぶき(=水の流れ)は
先ほどの水たまりをすっかり飲み込んでいました。
しかし、ここまでは来ないなという事も確認もできました。
つまり、ポチがあの水しぶきを僕に知らせてくれたのでした。
ポチが、知らせてくれなかったらと思うと、危ない所でした。
それから、僕はゆっくり堤防を登り、川をあらためて見ると、
川の上流から流れてきた流れは、あの水たまりを完全に飲み込み
川の中ほどまでの川幅になり、下流へと流れていました。
上流の水門でたんぼの方に全部流すのを減らし、
元の川の方に流すようにしたからでした。
家に帰る途中、ポチはくさりに繋がれているけど
何か自信満々のように歩いているように僕の眼には映りました。